余因子の求め方を徹底解説!符号のルールから3次4次展開と逆行列まで
余因子の最もエレガントな代数学的応用が、逆行列の公式とクラメルの公式です。
逆行列の公式と余因子行列
正則行列($\det(A) \neq 0$)である正方行列 $A$ の逆行列 $A^{-1}$ は、余因子を用いて次のように一発で表すことができます。
$$A^{-1} = \frac{1}{\det(A)} \tilde{A}^T = \frac{1}{\det(A)} \operatorname{adj}(A)$$
ここで登場する $\operatorname{adj}(A)$(または $\tilde{A}^T$)を余因子行列(adjugate matrix / classical adjoint)と呼びます。
3次正方行列の場合、各成分の余因子 $\tilde{a}_{ij}$ を並べた余因子行列は次のようになります:
$$ \operatorname{adj}(A) = \begin{pmatrix} \tilde{a}_{11} & \tilde{a}_{21} & \tilde{a}_{31} \\ \tilde{a}_{12} & \tilde{a}_{22} & \tilde{a}_{32} \\ \tilde{a}_{13} & \tilde{a}_{23} & \tilde{a}_{33} \end{pmatrix} $$
ここで絶対に注目すべきは、「第1行第2列」の位置に配置されているのが $\tilde{a}_{12}$ ではなく $\tilde{a}_{21}$ である点です。行と列のインデックスが入れ替わっています(転置)。
なぜ余因子行列は転置しなければならないのか?
「なぜわざわざ転置するのか?」という疑問は、初学者が最も抱きやすい論点です。この理由は、行列の積 $A \cdot \operatorname{adj}(A)$ を計算したときに、対角成分と非対角成分で何が起きるかを代数的に追うと明白になります。
行列 $A$ の第 $i$ 行ベクトルと、余因子行列の第 $i$ 列ベクトル(これは元の余因子の第 $i$ 行の並び)の内積を計算すると、まさに「第 $i$ 行に沿った余因子展開の公式」そのものになり、値は $\det(A)$ になります。
一方で、行列 $A$ の第 $i$ 行ベクトルと、異なる第 $k$ 列ベクトル($i \neq k$)の内積を計算すると、それは「第 $i$ 行と第 $k$ 行が全く同じ成分を持つ行列の行列式」を展開したことと同義になります。同一の行を2つ持つ行列の行列式は常に $0$ になるため、非対角成分はすべて $0$ に消滅します。
結果として、転置して配置しておくことで初めて以下の美しい関係式が成立します:
$$A \cdot \operatorname{adj}(A) = \begin{pmatrix} \det(A) & 0 & 0 \\ 0 & \det(A) & 0 \\ 0 & 0 & \det(A) \end{pmatrix} = \det(A) \cdot I$$
両辺を $\det(A)$ で割ることで $A \cdot \left( \frac{1}{\det(A)} \operatorname{adj}(A) \right) = I$ となり、定義通り逆行列が導き出されるのです。つまり、「積を行列式 $\det(A)$ と単位行列 $I$ に着地させるための数学的必然」として転置が必要になります。
クラメルの公式と余因子の連携
連立一次方程式 $A \boldsymbol{x} = \boldsymbol{b}$ の解を代数的に求める「クラメルの公式(Cramer's rule)」も、本質的にはこの余因子行列の性質を応用したものです。各変数 $x_k$ の解は、係数行列 $A$ の第 $k$ 列を定数項ベクトル $\boldsymbol{b}$ に置き換えた行列の行列式を $\det(A)$ で割ることで得られます。理論的な証明のバックボーンにはすべて余因子展開が息づいています。