なぜ王子は虎の餌食に?法隆寺「捨身飼虎図」に隠された衝撃の真相
崖から身を投げる若者と、それに食らいつく虎――。「捨身飼虎図」に描かれているのは、仏教を開いた釈尊(ブッダ)の前世の物語を綴った「本生譚(ほんじょうたん / ジャータカ)」のエピソードです。
主人公は、大車王(たいしゃおう)という国王の第3王子である摩訶薩埵王子(まかさったおうじ / 薩埵王子)。ある日、薩埵王子が兄たちと竹林を散策していた際、断崖の底で飢えに苦しむ母虎と7頭の子虎を目撃します。母虎はあまりの空腹から、産まれたばかりの我が子を今にも食い殺しそうな極限状態にありました。
その凄惨な光景を目にした薩埵王子は、深い慈悲の心から「自らの肉体を虎の食料として捧げ、母子の命を救おう」と決意します。しかし、衰弱しきった母虎は王子に襲いかかる力すら残っていません。そこで王子は自ら竹の枝で喉を突き刺して血を流し、崖の上から身を投げて虎の前に横たわりました。血の匂いに気づいた虎たちは王子の肉を食らい、無事に飢えをしのぐことができたのです。
この説話が伝える「捨身飼虎」の真意・意味は、自己犠牲そのものを讃えることではなく、「一切の生きとし生けるものを救うための究極の慈悲(大慈悲心)」と「仏道修行における最高の利他行(施身)」にあります。自己への執着を完全に捨て去り、他者の苦しみを救うという仏教の根本思想が、この壮絶な物語に凝縮されています。