脳の血流を守るウィリス動脈輪とは?構成血管の覚え方と動脈瘤リスクを解説
ネット検索でウィリス動脈輪を調べると、不安を煽るような不正確な言説が散見されます。医学的に証明されているエビデンスに基づき、一般に広がる代表的な2つの誤解を正しく是正していきましょう。
誤解1:「ウィリス動脈輪に形成不全がある=脳梗塞のリスクが極めて高い」は嘘
医学解剖書の基準では「六角形の完全な環」が標準として描かれますが、実際の解剖調査や画像診断の統計では、左右対称で教科書通りの完全な輪を維持している成人は全体の40〜50%程度にすぎません。残りの半数以上は、後交通動脈の片側が極めて細い(低形成)、あるいは前交通動脈が癒合しているといった何らかの「形成不全(血管の破格・変異)」を持っています。
胎児期には首からの内頸動脈が脳全体の血流を担っていますが、成長とともに椎骨動脈系が発達すると、前後の橋渡し役だった後交通動脈は役目を終えて自然と細小化していきます。したがって、後交通動脈の低形成は病的な奇形ではなく、正常な成長のプロセスで生じる生理的変化です。他の太い動脈に動脈硬化がない限り、低形成があることだけで脳梗塞を起こすリスクが跳ね上がることはありません。
誤解2:「動脈瘤が見つかったら、破裂する前に今すぐ手術すべき」の誤り
「未破裂動脈瘤=即手術」という発想も重大な誤認です。日本脳卒中学会のガイドラインや大規模前向き研究「UCAS Japan」のデータによれば、小型の未破裂脳動脈瘤(特に3〜4mm未満)の年間破裂率は平均して約0.5〜1%未満と非常に低いことが明らかになっています。
開頭してチタン製クリップで留める「開頭クリッピング術」や、足の付け根や手首からカテーテルを通してプラチナコイルを詰める「血管内コイル塞栓術」はいずれも洗練された技術ですが、開頭手術や血管内治療には当然ながら数%の手術合併症(脳梗塞や出血リスク)が存在します。「手術によって生じるリスク」が「生涯で動脈瘤が破裂するリスク」を上回る小型病変の場合は、むやみにメスを入れず、半年に1回〜年1回の定期的なMRI検査で大きさを追跡する「経過観察」を選択するのが標準的かつ最も安全な医療判断となります。
特殊なケース:もやもや病との決定的な違い
なお、形成不全と混同されやすい病態に国指定の難病である「もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞症)」があります。これは先天的な血管の細さとは根本的に異なり、ウィリス動脈輪を構成する内頸動脈の終末部が原因不明のまま進行性に狭窄・閉塞していく病気です。血液不足に陥った脳が必死に新しい毛細血管(側副血行路)を発達させ、その血管網が脳血管造影検査でタバコの煙のようにモヤモヤと映ることから名付けられました。もやもや病は小児の脳虚血や成人の脳出血を引き起こすため早期の外科的血行再建術が必要ですが、通常の脳ドックで指摘される単なる「低形成」とは明確に区別されます。