杉本真人『吾亦紅』はなぜ涙を誘うのか?母への後悔と名曲の真実

杉本真人『吾亦紅』はなぜ涙を誘うのか?母への後悔と名曲の真実に関する基本知識を徹底的にまとめました。詳細を読もうことができます。

『吾亦紅』が世に放たれたのは2006年2月のことでした。当初は杉本真人の自主的な音楽活動の一環として制作されたシングルでしたが、ラジオの深夜放送や有線放送を起点に火がつき、翌2007年2月21日にテイチクエンタテインメントからメジャー再発売されると、異例のロングセラーを記録します。当時58歳だった杉本真人が第58回NHK紅白歌合戦への初出場を果たす原動力となりました。

この楽曲が日本中の琴線を震わせた最大の要因は、歌詞に込められた「圧倒的な生のリアリズム」にあります。世の中に溢れる母親をテーマにした名曲の多くは、「育ててくれてありがとう」「あなたの温もりを忘れない」といった感謝や情愛を前面に押し出したものです。しかし、『吾亦紅』の主人公が吐露するのは、感謝ではなく「間に合わなかった後悔」と「みっともない自分への苛立ち」でした。

当時、杉本真人は最愛の母・光恵(みつえ)さんを亡くしたばかりでした。音楽の世界で成功を収めながらも、母が生きている間に本当の意味での親孝行ができたのかという自責の念に苛まれていた杉本は、その心情を旧知の仲であった作詞家のちあき哲也に打ち明けます。ちあき哲也といえば、矢沢永吉の『止まらないHa〜Ha』や堀内孝雄の作品など、骨太な男のダンディズムを描かせたら右に出る者がいない名手です。しかし、このときちあき自身もまた、母親を亡くした深い喪失の淵に立たされていました。

「お前も母ちゃんを亡くしたのか。俺もなんだよ」――互いの傷口を晒け出し、男二人が酒を酌み交わしながら流した涙が、あの胸を打つフレーズへと昇華されました。杉本の実話であると同時に、ちあき哲也自身の母への懺悔でもあったからこそ、歌詞の一行一行に血が通い、聴く者の過去の古傷を激しく揺さぶったのです。

関連記事