崎山蒼志の現在と天才たる理由|日村がゆくから呪術廻戦「燈」への進化
彼が同業者や評論家から「天才」と呼ばれる理由は、単に歌が上手いという次元の話ではありません。音楽理論と身体的プレイが極めて特異なレベルで融合している点にあります。
まず挙げられるのが、右手のアタックとパーカッシブな打弦技術です。アコースティックギター1本でありながら、ドラムのスネアやキックに相当する音をボディヒットやストロークのミュート音で同時に奏でる奏法を自然体で駆使します。親指と人差し指を立体的に使う変則的なピッキングスタイルは、4歳からクラシックギターやエレキギターに触れ、小中学校時代にバンド活動を重ねてきた過程で独学により培われたものです。
さらに驚異的なのがコード進行と転調の複雑さです。一般的なJ-POPの王道進行(カノン進行や丸サ進行)に依存せず、ジャズやフュージョンで用いられるテンションコード、オープンチューニングや変則チューニングを多用します。不穏さと切なさが同居する独特の響きを生み出しながらも、サビでは聴く者の耳にスッと馴染むキャッチーなメロディラインへと着地させる構築力は、天賦の才と言えます。
また、10代前半で作詞された「五月雨」や「夏至」に見られる言葉選びも特筆に値します。日常の些細な情景から人間の根源的な孤独や焦燥感をすくい取る文学性の高さは、三島由紀夫や中原中也といった近代文学、さらにはNUMBER GIRLやたま、ASIAN KUNG-FU GENERATIONなどの日本のオルタナティブロックから深く吸収した影響が色濃く反映されています。