紅海と地中海を結ぶ大動脈の危機|スエズ運河と喜望峰迂回の真相
2023年秋以降の中東情勢緊迫化を契機に、イエメンの親イラン武装組織フーシ派はバブ・エル・マンデブ海峡を通過する商船に対し、対艦弾道ミサイルや自爆ドローンを用いた無差別とも言える攻撃を開始しました。これが現在まで尾を引く「紅海危機」の発端です。
商船が炎上し、船員に死傷者が出る事態に至り、各国の船主や運航船社は決断を迫られました。米英軍が主導する護衛作戦が展開されたものの、ドローンの低空飛行やゲリラ的な攻撃を百発百中で防ぎ切ることは物理的に不可能です。結果として、船主責任相互保険組合(P&Iクラブ)やロイズ保険市場が設定する「戦争危険保険料率」が跳ね上がり、スエズ運河を通過するだけで船舶価格の数パーセントに及ぶ莫大な追加コストが請求される事態となりました。
船社の選択肢は極めて冷酷です。「攻撃を受けて人命や数十億円相当の船体を失うリスクと跳ね上がった保険料を背負って紅海を突っ切るか」、それとも「日数はかかるが安全なアフリカ南端の喜望峰迂回を選ぶか」。世界最大手のマースク(デンマーク)、MSC(スイス)、CMA CGM(フランス)、そして日本の大手3社が統合したONE(オーシャン・ネットワーク・エクスプレス)を含む主要アライアンスは、安全確保を最優先として喜望峰ルートへの全面シフトを選択しました。
喜望峰迂回が常態化した結果、アジア〜欧州航路の航海距離は片道で約3,500海里(約6,500キロメートル)も延び、航海日数は往復で約20〜28日余計にかかることになりました。この「船が海の上に拘束される時間の増大」が、船腹(コンテナ船の積載スペース)の供給不足を生み出し、空コンテナが主要港に戻ってこないという深刻な機材不足を連鎖的に引き起こしています。