歌舞伎に女性が出演できない真の理由|出雲阿国から梨園の現在を追う
女性が歌舞伎俳優になれない構造は、門外漢の一般人だけでなく、名門の家に生まれた当事者の人生をも激しく揺さぶってきました。その象徴が、人間国宝・七代目尾上菊五郎の長女として生まれた女優・寺島しのぶ氏の軌跡です。
幼少期、弟の五代目尾上菊之助氏とともに稽古に励み、誰よりも歌舞伎を愛しながらも、成長とともに「女だから舞台に立てない」という現実に突き当たった寺島氏。自著『しのぶのしかけ』や過去のインタビューで語られた言葉は切痛です。
「弟が初舞台を踏んだとき、どうして私にはその権利がないのかと悔しくてたまらなかった。『もし男に生まれていたら』という思いは、二十代を過ぎても心のどこかに澱のように沈んでいた」
彼女は現代劇や映画の道へと進み、ベルリン国際映画祭で最優秀女優賞(銀熊賞)を獲得するなど国際的評価を確立しました。そして2023年、彼女の長男である尾上眞秀(まほろ)氏が歌舞伎座で正式に初舞台を踏んだ際、劇場の片隅で見守る彼女の姿は「歌舞伎界の伝統と母の愛執」として大きな話題を呼びました。自らは舞台に立てずとも、息子を梨園へ送り出すという選択の中に、歌舞伎の家制度が抱える複雑な感情が凝縮されています。
対照的に、新しい世代の象徴として注目を集めているのが、十三代目市川團十郎の長女である市川ぼたん(堀越麗禾)氏です。2019年にわずか8歳で四代目市川ぼたんを襲名し、日本舞踊市川流の舞踊家として類まれな才能を開花させています。父・團十郎氏や弟・八代目市川新之助氏とともに成田屋の特別公演で共演を重ね、古典舞踊の演目を堂々と踊りきる姿は、観客や批評家から絶賛を浴びています。
市川ぼたん氏は「歌舞伎俳優」として本公演の役を演じているわけではありません。あくまで「日本舞踊家」および女優としての出演です。しかし、名門成田屋の主要な舞台に立ち、父や弟と並び立つ彼女の存在は、「歌舞伎の舞台に立つ女性の可能性」について、言葉以上に雄弁な問いを観客に投げかけています。